ネタバレを含みます
前々から断片的なコマだけ見て、何だこれいったいどういう漫画なんだと思ってた「ハイパーインフレーション」を、全話無料キャンペーンで読み始めて完結を見届けたので感想を書いてく。
一話の中でどんでん返しが何度も起きて、常に先がわからないハイテンションで進む漫画なので最後の方からとはいえリアルタイムで追えてよかった。
一巻のカバー折り返し部分に何かに真剣に取り組む姿が滑稽に格好悪く見える事があるが、そんなのは最高で、この漫画では、それを描いたと作者住吉九先生のコメントが載ってて、本当にその通りの漫画だなと思う。
どのキャラも自分の信念と夢に一生懸命に動いてる。
ルークとフラペコが並んでライフル構えるシーンで2人ともほっぺがむにってなるの好きなんだ。でも2人は真剣なんだ。
贋金を溜めるためにルークがアヘアヘしたり、賢者入って冴え渡る頭脳で窮地を脱出したり、見られた気まずくなったりも真剣……いやそれは作者の趣味だろ。
多分この作者しか作り出せない漫画
この漫画を読んでしみじみ思うのは、私じゃ50回転生しても描けない話だなって事。
他の話は簡単に書けるとかそういうのじゃなくて、頭のいい人は難しい事を簡単な話にして話せると言われてるのをこの漫画で実感を持って理解した。
経済戦とか贋札を売り捌くまでの工房とか地味で飲み込みづらい話を、ギャグ漫画を読む程度の気楽さで飲ませてくれて、ジャンプ漫画らしい熱い展開を作る作劇力おそろしいですね。
難しい話になる時は、インパクトのある絵面とで読者の退屈させないように進めて、最後に主人公達のゴールと敗北条件を教えてくれる事であっさり読ませてくれる。
頭脳戦で頻繁に攻守が入れ替わるけど、絶対こんな策破れないよ!と読者を納得させた後に相手陣営が正面から打ち破る作戦を出してきたり、最後までどう着地するか展開が全く読めなかった。
クルツさんが仲間になる所と、レジャットが改心?してルークに協力してくれるラスト付近はちょっと無理矢理感あったけど、こんだけヘビーな内容を全6巻に収めたらそうもなるよ。
何食ってたらこんな話生み出せるの!?あと何食ってたら全身から贋札だしてアヘるショタを主人公にしよう!と発想できるの……
設定が一味違って好き
ピンチで異能に覚醒する主人公は多いけど、この漫画の異能の授かり方が好きなんだ。
既に生物が備えてる生殖能力こそ神が与えた異能で、子孫繁栄以上に望む欲望があるなら、これを失う代わりに力を授けるって設定に読み初めてまずおぉ!と思った。俺馬鹿だからよくわかんねぇけどエモくていい設定。
そうだよね肉体が滅びた後も、自分の一部を残し続けるってとんでもない神秘だよね。
読切版で出てくる、元の部族の言葉だと語彙が足りなくて経済について思考しきれないから咄嗟に帝国語混じりで喋っちゃうルークとかもファンタジーで扱ってるの見た事なかったからすげぇと思った。
住吉九は哲学方面にも設定を深掘りする人らしい。
キャラクターの癖が強い
ストーリーが凄いって延々語ってきたけど、それがパセリになるくらい登場キャラがトンチキで熱くて魅力的なんだ。
平気で裏切り合うし、変態だったり引き金が軽かったりいい奴全然いないけどみんな好きになれる絶妙なバランス感。こんなに頼りにしてた味方キャラがあっさり裏切ってわー次は何してくるのかなぁ(にこにこ)と穏やかな気持ちで見てられるの初めてでした。
主人公のルーク含めてつらい境遇のやつも多いのにみんな前向きで湿っぽく無いのがいいんだ。誰も彼も信念とか夢に全力だからメンタルが安定してて安心してみれる。
一部のキャラを頭よくするために極端に馬鹿に設定される人とか、話を転がすためにただ悪人にされる人もいない。イェルゴーとかは分かりやすく敵だけどそれが彼の信念だから。
グレシャム、レジャットが、ルークが子供だからとか被差別民族だからとかでみくびらず、対等にやり合うのが好きなんだ。私がツイステのオクタが好きなのもそうで、感情は次点でただ相手の能力を認めて関係を作ってるのがいい。
依存や惰性じゃなくてただ価値を認めてるから側に立つって素敵やん。ギリシャの同性愛が繁殖と関係ないから真実の愛とか嘯かれてたのと同じ理屈。
だからこそ、イェルゴーがルークをカブール人というだけでルークを人間として扱わなかった事で一気に冷や水かけられるのがうまい構成。そこでヘイト集めないと最終巻で登場したイェルゴーを倒してすっきり完結とはできないもんね。
ここから主要キャラについて個別に書いてくぞ。
ルーク
可愛くて前向きで特殊能力があるだけでも十分主人公になれるけど、それで終わらない頭脳と熱さを持ってる主人公。
最初期は、頭脳は冴えてても老獪さと覚悟が足りなくて怪人2人に手玉に取られてたのに、覚悟を決めてから次に何をしてくれるのか楽しみになるような頼もしい子になって感慨深いよ。
入れ替え作戦でいいようにされてた時から大きくなって。
ルークがそれぞれの欲望に振り切れた時の行き着く先がグレシャムとレジャットだと思う。メガテンでいう所のカオスルートとロウルートだな。
怪人2人と比べてまだまだ人間なルークが、姉を救えなかった無力感とか、生殖能力を失った不安感とかの弱さを不意に見せるのがいい。
生殖能力を失った事で生き方に迷うルークが、ただの人間として生きるのを諦めようとするたび引き止めてくれるフラペコが尊いんすわ。
結局生殖能力戻らないままか、ダウーの最強の生殖能力でなんとかするのかと思ってたから今までの救世主たちも含めて幸せになれててよかった。
10年後とかに再度フラペコが自治区を訪れたら子供でサッカーチームが二つ出来てそう。
大人に成長したルークも見たいな。
グレシャム
お金儲けの妖精さん。
もはや自然現象。自然現象すぎてルークに使い方学ばれてんよ。なんだかんだお金のためとは言え懐に入れたやつに甘い。
ひとつもいい人じゃないし卑怯なのに、どんなにどん底に陥ってもブレないし楽しんでいけるの見るとカッコいい。
クズだけど欲望に色がついてないと言うか、精神性が人間離れしてるから何度裏切っても安心して見れる。
金稼ぎが判断の全てすぎて、それ以外については心底平等な男。…なのに私のフラペコとか言い出すからあざとさ天元突破だよ。
大好きなお金稼ぎを一緒にする相手が特別じゃないわけないよね。
フラペコ
1番好き。
属性はツッコミ枠かつ執事系のおさんどんさんなのに、気が弱いだけじゃない抜け目ない小狡さがあって生き汚なさが魅力。
その上でルークにまともな大人の目線で味方してくれるの最高かよ。なんだよそれー!
ルークが人間の幸せをやめて怪人になろとするたびに、ルークの人間性のかけらを捕まえて引き留めてくれるのが本当に好き。
それによってルークに八つ当たりされても何も言わないで耐えるのてぇてぇよぉ!すかさずグレシャムが庇いにきてくれるの最高だよぉ!!
そもイケメンじゃない三枚目な眼鏡が有能でなよなよしてないの好きなんだ。銃夢のイドダイスケみたいな。
ハイパーインフレーションはルークとフラペコの成長譚なんだ。全てが信じられなくなってグレシャムに縋って、そしてルークと出会って支えるために自立を決意するの熱い。
もともと工作能力がチートだったのに自信までついたら最強商人なんよ。どんな腹心を作るのか楽しみだなぁ。
レジャット
メガテンで言う所のロウルートの人。
英雄願望のために大義を手段にするやべぇやつ。相手への感情と行動をきっぱり切り離して行動できる公人。
こんなになんでも出来るのにルサンチマンなのが面白いキャラ付け。
クルツに信念バトルで負けるシーン好きなんだよね。
自分が勝てなかったから誰も打ち勝てないと信じてた痛みを、クルツが信念の力で乗り越えるのを見せつけられるのいいよね。
今まで泥つけられてなかったエリートが叩きおられるの好物です。
グレシャムは台風だから、実質ルークと対峙してたのはレジャットだけだよね。実際ルークと対比してる部分も多い。
みんなに囲まれて絶望から立ち直ったルークと、部屋に1人のレジャットね。あの独身寮のシーンは衝撃だったよ……
読み返すとオークションの後動揺するルークに抱きつかれるシーンで堕ちてて草。
能力が欲しいのも本音だけど、ルークを手元に置きたいのも本音だろ。
大義を手段にしないために最後自分の英雄願望を抑え込むのジャレットも変われる展開で良かった。ちょっと駆け足だったけど。
短くまとまってるのに満足度の高い作品でした。
最初に全話無料キャンペーンで読んだ時徹夜で読んで熱狂したように、これ書く為にまた夢中で読んじゃった。
リアルタイムで読んでた時は、これひょっとしてビターエンドもあるのではと思ってたけどウルトラスーパーハッピーエンドで落ち着いて良かった。
また住吉先生の次作読みたいなぁ。